VIII

膀胱がん

BLADDER CANCER

膀胱がん

膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓でつくられた尿を一時的に貯留する役割と貯留した尿を体外へ排出する2つの役割を持っています。膀胱内腔の表面は尿路上皮という上皮で覆われ、伸縮性に富むことが特徴的です。膀胱がんは、この尿路上皮ががん化することによって引きおこされ、組織学的には尿路上皮がんが全体の90%を占めています。
膀胱がんは人口10万人あたり毎年約20人に発生し、それほど多いがんではありませんが、年々増加する傾向にあります。若年者にもときにみられますが、50歳以上の方に好発し、男性に多くみられます(女性の2~3倍)。喫煙者は非喫煙者に比べて4倍程度発生率が高く、化学物質や染料を扱う職業の人にも好発することが報告されています。また、慢性膀胱炎や膀胱結石などの人もかかりやすいといわれ、アフリカなどでは寄生虫による膀胱がんの発症も知られています。

表在性乳頭状膀胱がん

悪性度の低いがんで、膀胱の内面に突出します。腫瘍表面はカリフラワー様で茎を持っていますが、茎の根は浅く、内視鏡的に治療可能です。しかし、再発率が高いことが知られており、半数以上の患者さんで膀胱内に再発します。腫瘍の深さは膀胱の筋肉の層には達していません。

浸潤性膀胱がん

表在性乳頭状膀胱がんと異なり、がんの表面は比較的スムーズで、こぶのように盛り上がるものや、膀胱粘膜下に進展して粘膜がむくんで見えるものまでさまざまです。悪性度の高いがんで、根が広く膀胱の壁の深いところ(筋肉の層)まで浸潤する傾向があり、転移することもあります。膀胱の摘出手術や抗がん剤の使用など、体に負担のかかる治療が必要となります。

上皮内がん

膀胱の表面には、ほとんど隆起した病変を生じませんが、膀胱粘膜に沿って悪性度の高いがん細胞が存在している状態です。初期のがんではありますが、無治療でいると高率に浸潤性のがんになっていきます。

I.

肉眼的血尿

膀胱がんの初発症状として最も多く認められる症状で、排尿時痛などの痛みは伴わないこと(無症候性)が一般的です。

II.

排尿時痛、頻尿、排尿困難

肉眼的血尿はなく、初発症状が排尿時痛や下腹部の痛みで出現する場合があります。この症状は膀胱炎と非常に類似しているため、膀胱炎として治療されていることもありますので、膀胱炎を頻発する場合は注意が必要です。抗生剤を服用してもなかなか治らないことが特徴です。

膀胱鏡

尿道から膀胱の中に内視鏡を入れて膀胱内をみる検査です。

尿細胞診

尿中に剥がれた尿路上皮細胞を顕微鏡で調べて、がん細胞がないかどうかを見る検査です。提出した検尿を用いて検査ができます。

CT, MRI

MRIでは主に膀胱がんの深達度(根の深さ)を調べます。また、膀胱周囲のリンパ節に転移がないかも確認することができます。CTでは肺や肝臓、リンパ節などに転移がないかを調べます。

I.経尿道的膀胱腫瘍切除術 (TURBT)

切除用の内視鏡を尿道から挿入し腫瘍を切除する方法です。主に腰椎麻酔下で行い、腫瘍を切除します。組織診断が可能であり、表在がんであればこの手術で治癒も可能です。しかしながら、筋肉の層に浸潤するがんであればこの手術だけでは治療が不十分であり、下記の追加治療が必要になります。表在がんであれば、本手術の直後に抗がん剤を膀胱内に注入して膀胱がんの再発予防を行います。手術後は再発腫瘍を早期に発見するために、2年間は3ヶ月毎の膀胱鏡を行う必要があります。

II.BCG膀胱内注入療法

BCG(弱毒化した結核生菌)を、カテーテルを通し膀胱内に注入する方法です。 上皮内がんや再発を繰り返す表在がんの治療や再発予防として行われます。

III.膀胱全摘除術

膀胱と尿道を一塊にして摘出する手術です。尿の通り道(尿路)の再建方法によっては尿道を残すこともあります。経尿道的膀胱腫瘍切除術では完全に切除できない浸潤がんに対して行われます。表在がんであっても再発を繰り返し多発する場合やBCG膀注療法に抵抗を示すがんであれば膀胱全摘を行うこともあります。 膀胱を摘出するため、尿路を再建する手術(尿路変向術)も同時に必要となります。

IV.抗がん剤治療

肺、肝臓、骨などに転移のある進行した膀胱がんではがんが全身に広がっているため手術では治癒できません。この場合には抗がん剤を点滴し全身に広がったがんの治療を行います。明らかな転移が無くても膀胱の筋層に浸潤する場合やリンパ管や静脈の中にがんが認められる場合はすでにがんが全身に広がっている可能性が大きいため、手術前や手術後に抗がん剤治療を追加することで膀胱がん治療の成績向上を目指しています。

V.免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)

私たちの体には本来発生したがん細胞を排除する免疫の力が備わっていますが、がん細胞が免疫細胞に働きかけ、がん細胞を排除できなくなるようにブレーキをかけます。免疫チェックポイント阻害薬はブレーキのかかった状態を解除することで、再び免疫細胞ががん細胞を攻撃できる状態に戻し、本来自己に備わる免疫力でがん細胞を攻撃する治療法です。
膀胱がんにおいてもその効果が認められており、適切な時期に使用することで膀胱がんの治療成績の向上が報告されています。

回腸導管

20cmほどの小腸(回腸)を尿路の一部に用いる方法です。回腸に左右の尿管をつなげ、回腸の一端は閉じ、反対側はストーマとして下腹部に出します。ここに、集尿袋を貼り、尿を溜めます。 歴史があり安定した手術ですが、お腹に袋を下げる必要がありその管理・ケアが必要となります。

尿管皮膚瘻

尿管を直接下腹部に出し、ここに集尿袋を貼り、尿を溜めます。小腸の手術既往があり、小腸を尿路変向に使用できない症例や高齢者、合併症や併存症があり長時間手術のリスクが高い症例などに行います。

自然排尿型代用膀胱

長く切った小腸を袋状にして膀胱の代わりとし、残した尿道につなげます。袋状にした小腸に尿管もつなげます。お腹に力を入れ自力で尿を出すことが出来ます。 今まで通り尿道の先から尿を出すことができ集尿袋を貼る必要がありませんが、手術後に尿失禁や排尿困難が問題となることがあり、症例によっては自己導尿を要することもあります。また、手術時間も長くかかることから若い方に向いた方法です。

膀胱全摘について、これまで行ってきた腹腔鏡下手術から現在ではロボット支援下手術へ移行し、尿路変向についてもロボット支援下に行い、低侵襲手術を提供できるよう心掛けています。また、免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)や新しい化学療法を積極的に取り入れ、最新の治療を提供できるよう心掛けています。