精巣腫瘍
精巣腫瘍とは
精巣(睾丸)にできる腫瘍で、20~30歳代の若い人に多く発生します。多くは悪性(がん)で進行が速い場合が多いです。転移がある場合でも、抗がん剤の治療により根治が期待できるがんのひとつです。原因としては外傷や炎症、萎縮精巣や停留精巣(3-14倍リスク上昇)が知られています。
精巣の解剖
精巣は陰嚢内に左右1個ずつあり、精子や男性ホルモンを造る男性固有の臓器です。精巣を栄養する主な血管は、大動脈の腎臓の高さから出て鼠径部を通り精巣に至ります。精巣で造られた精子は、射精時に精管を経て前立腺部尿道から射出されます。
精巣腫瘍の頻度
10万人当たりおよそ1-2人と頻度は低く、男性の全腫瘍の1%程度です。15~35歳の男性においては最も多い悪性腫瘍のため、社会的にも極めて重要な疾患の一つになります。
局所の症状
通常は片側の痛みを伴わない陰嚢内のしこりで発見されます。下腹部や肛門、陰嚢の鈍い痛みや重たい感じを伴うこともあります。
全身症状
転移を起こすと様々な全身症状がでます。
- 腹部リンパ節転移(後腹膜リンパ節)
- 大きくなると腹部にしこりを感じることがあります。
- 頚部リンパ節転移
- 首にしこりを感じることがあります。
- 肺転移
- 咳や血痰、息苦しさなどを認めることがあります。
- ホルモン異常
- 乳房がふくらむ(女性化乳房)ことがあります。
その他、肝臓、骨、脳などに転移することがあります。
診断
局所:原発巣の評価
触診でおおよその見当がつくことが多いです。
超音波検査を行い、精巣のしこり(腫瘤)を確認します。
全身:転移巣の評価
CTやMRI、PET-CTなどを撮影し、転移の有無(腫瘍の広がり)を確認します。
また、血液検査で腫瘍マーカー(ヒト絨毛性ゴナドトロピンhCG、α-フェトプロテインAFP)やLDHを測定し、診断や治療効果の判定に用います。
上記検査で病期(病気の進行度)を決定します。
組織型
生殖細胞由来の胚細胞腫瘍と非胚細胞腫瘍に2分されます
- 胚細胞腫瘍(90−95%)
- セミノーマと非セミノーマ(胎児性がん、奇形腫、絨毛がんなど)に分かれます。非セミノーマの方が転移を起こしやすく、より予後が悪いです。
- 性腺基質由来
- ライディッヒ細胞腫、セルトリ細胞腫などがあります。
病期分類
- I
- 転移を認めず
- II
- 横隔膜以下のリンパ節にのみ転移を認める
- III
- 遠隔転移をみとめる
- IIIA
- 縦隔または鎖骨上リンパ節に転移を認める
- IIIB
- 肺に転移を認める
- IIIC
- 肺以外の臓器にも転移を認める
治療法
StageⅠであれば精巣摘除のみで厳重経過観察を行います。StageⅠであっても再発の危険因子がある場合は相談のうえ化学療法を検討します。StageⅡ, Ⅲには化学療法を行います。化学療法後に残存腫瘍がある場合は、追加の化学療法や残存腫瘍の摘出手術を検討する必要があります。
I.手術療法
第一に患側の精巣を精索とともに摘除(高位精巣摘除術)します。
腹部のリンパ節を摘除する手術(後腹膜リンパ節郭清術)を行うこともあります。
その他の転移した部位の摘除(肺切除、肝切除など)を行うこともあります。
転移した部分の手術は通常、化学療法の後に行います。
II.化学療法
ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンといった抗がん剤の3剤併用療法(BEP療法)を1コース3週間で3~4コース行うことが一般的です。合併症(吐き気、脱毛、白血球減少など)や後遺症(精子を作る機能の低下や手足のしびれなど)の問題があります。
精子保存について:挙児を希望する患者で、両側精巣腫瘍の場合や精巣摘除後に化学療法や放射線療法を行う場合に考慮します。
III.放射線療法
Stage Iのセミノーマに対し、転移再発を予防する目的で傍大動脈領域に放射線療法を行うことがありますが、二次がん発生といった長期的な問題があります。
Stage IIのセミノーマに対し、転移巣を治療する目的で関連するリンパ節に放射線療法を行うことがあります。
早期合併症:放射線をあてる部分の皮膚の発赤や体のだるさなどがみられることがあります。
晩期合併症(数ヶ月~何年も経ってから起こる後遺症):神経障害、腸管の炎症、狭窄などがみられることがあります。
当科の精巣腫瘍治療における特徴
迅速な診断とチーム医療
精巣腫瘍は迅速な診断と迅速な治療が必要です。また、適切な抗がん剤の使用にあたっては、経験豊富な医師や看護師、薬剤師などのチーム医療が必要となります。当科では精巣腫瘍が疑われた場合、迅速な診断を行うことができ、化学療法や放射線療法が必要な場合には適切な集学的治療を提供できる医療体制を整えています。
化学療法について
現在はブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3剤併用療法(BEP療法)が初期化学療法として効果が確立されており、一般的に第一選択となっています。しかしながら、転移のある精巣腫瘍の中で2~3割は、このBEP療法だけでは腫瘍マーカーの正常化が得られないことや転移巣の縮小が得られないこともあります。その場合にはパクリタキセル、イホスファミド、シスプラチンの3剤併用療法(TIP療法)など、いくつかの別の併用療法で化学療法を行っているのも当科の特徴です。