VII

腎移植

KIDNEY TRANSPLANT

はじめに

腎臓の機能が著しく低下、あるいは失われることによって、本来尿として体外へ捨てられるはずの様々な毒素(総称して尿毒素と呼びます)や水分が蓄積する状態が慢性腎不全です。 腎臓の病気や糖尿病や高血圧といった生活習慣病が慢性腎不全の原因ですが、残念ながらいったん慢性腎不全になると腎機能が回復しないため、治療が必要となります。慢性腎不全の治療には血液透析、腹膜透析、腎移植があり、これらを総称して腎代替療法と呼んでいます。
腎代替療法はそれぞれの治療に利点・欠点があるため、複数の治療を上手に組み合わせて、健康寿命を延ばすことが重要です。当科には国が定める腎代替療法専門指導士が在籍し、腎代替療法の選択や組み合わせ方の助言を行っています。
当院は大分県で唯一の腎移植認定施設であり、腎移植は当科が担当しています。
腎移植は別人から提供された腎臓機能を追加することによって再度腎機能を得る治療で、慢性腎不全を根本的に治す唯一の治療(腎不全そのものを解消する治療)です。腎移植は生存率と生活の質を向上させることが特徴です。
腎臓の提供者と腎移植を受ける方の血液が異なる組み合わせの腎移植(血液型不適合腎移植)が可能になり、夫婦間の組み合わせでの腎移植が増えています。さらに移植の可否は暦の年齢だけで決定せずに、検査結果を加味して決定するため、以前に比べて高齢者でも腎移植を受けることができる方が増えています。
腎移植手術、移植患者さんの管理は腎移植専門医が中心に行っています。

腎移植には献腎移植(亡くなった方から提供された腎臓を移植する)と生体腎移植(生きている親族から提供された腎臓を移植する)があります。日本では1年間に約2000件(献腎移植が約200件、生体腎移植が約1800件)の腎移植が行われています。
当科では開院~2022年12月末までに17例の献腎移植と132例の生体腎移植を行い、日本臨床腎移植学会が公表している日本の腎移植の成績とほぼ同じか、ややそれを上回る良好な成績となっています。

生体腎移植を希望される方(腎移植を受ける方をレシピエントと呼びます)は腎提供予定の方(ドナーと呼び、ドナーは親族に限られています)も含めたご家族で当科外来にお越しください。外来で腎移植を含む腎代替療法のお話をさせて頂き、移植を希望された場合にドナーと共に必要な腎移植に特有な検査を順番に行います(検査入院が必要な場合があります)。
検査結果に問題なければ、腎移植手術の時期を計画します。ドナーとレシピエントは手術の数日前から入院して頂きますが、血液型不適合移植の場合はレシピエントは腎移植の2週間前から入院や処置が必要です。腎移植手術はドナーの手術(移植腎採取術)とレシピエントの手術(生体腎移植術)を2つの手術室を使って同時に行います。移植腎採取術は移植に用いる腎臓を摘出する手術です。
ドナーの手術は傷の大きさと痛みを少なくするために腹腔鏡手術で行っています。ドナーの入院期間は平均約10日です。

腎移植手術(レシピエント手術)

通常右の下腹部を15cm切開し、そこに腎臓を移植しています。レシピエントの腎臓を摘出する手術が必要なのは特殊例だけで、通常は行いません。レシピエントの平均入院期間は移植手術前の約1週間、移植手術後の約2-3週間の合計3-4週間です。

献腎移植は順番待ちの状態で登録(申込み)が必要です。献腎移植を希望される方は、透析施設に献腎希望の旨を説明し、必要な書類を持参して当科外来を受診してください。
当科で献腎登録書類の最終確認をします。
登録後、患者さんに合った腎臓提供があるまで待機していただきます(平均15年待ち)。
献腎が出た場合、日本臓器移植ネットワークが登録している患者さんの中で誰に合うかを判定し、ある日突然「あなたに合う腎臓提供があります」という電話がかかってきます。
献腎移植の希望を最終確認後、緊急入院となります。
腎臓が当院に到着するまでの時間に必要な検査や透析を行い、結果に問題なければ腎臓が到着次第、移植手術を行います。
移植手術は生体腎移植と同様に、通常は右の下腹部を約15cm切開し、腎臓を移植しています。
献腎の場合、移植して腎臓が働き始めるまで平均2週間ほど時間が必要であり、腎臓が働き始めるまでの間通常通り血液透析を行い、移植した腎臓の働きが安定したら透析をやめてみて退院の日にちを決めます。

腎移植で注意が必要になるのは拒絶反応です。拒絶反応とは、自分の肉体とは異なるものが体に侵入した場合、それを排除しようとする正常な体の防衛反応です。拒絶反応は移植した腎臓に障害を及ぼすため、拒絶反応を抑える目的で免疫抑制剤の内服が必要です。
拒絶反応を抑えることはウイルスや細菌などの病原体が体に侵入した際の正常な体の防衛反応を抑えてしまうため、腎移植患者さんは感染症やがんにも注意が必要になります。

腎臓移植は腎不全治療のゴールではありません。スタートです。医学の発達に伴い腎移植術は成績が良くなり、日本の腎移植の成績は世界最高水準です。
しかし世界最高水準の成績であっても、腎移植の成功率は100%ではなく、移植した腎臓が一生働いてくれないことも多々あります。当科では最善と考えられる検査と治療を実施していきますが、ドナーやレシピエント、その家族の方々とよく話し合い、相談しながら診療を行うように心がけています。