基礎研究 (外尿道括約筋の再生療法の開発)
外尿道括約筋の再生療法の開発
尿失禁は高齢者の三大症候群の一つと考えられており、高齢者の生活機能の自立を阻害し健康管理に深刻な問題点を与える重大な要因です。尿失禁患者を減少させることは高齢者の生活の質(QOL)の向上につながり、結果的に医療コスト削減にも貢献できる可能性があると思われます。
尿失禁の中で腹圧性尿失禁とは労作時や咳嗽時に不随意に尿が漏出する状態をいい,閉経以後の女性尿失禁患者の約3分の2に認められています〈❈1〉。外尿道括約筋は膜様部尿道をΩ状に取り囲む主として遅筋成分からなる横紋筋線維であり、持続的筋収縮を行うことにより尿禁制に寄与しています〈❈2〉。加齢に伴いこれら外尿道括約筋細胞数はアポトーシス(プログラムされた細胞死)により減少していることが明らかになり〈❈3〉、その機能低下は男性における前立腺手術後の外尿道括約筋損傷とともに、腹圧性尿失禁の原因の1つと考えられています。
これら外尿道括約筋の機能異常に伴う腹圧性尿失禁では外尿道括約筋細胞の増殖が治療として有効と思われ、外尿道括約筋細胞の増殖分化制御機構を検討することは新たな治療法の開発にもつながることが期待されます。しかしこれまでに外尿道括約筋細胞の増殖分化制御機構について検討した報告は国内外とも報告されていませんでした。
これまでに我々はヒト外尿道括約筋から筋の組織幹細胞である筋衛星細胞を分離培養しその増殖、分化に各種増殖因子やサイトカインが関係していることを明らかにしてきました〈❈4-6〉。これら増殖因子やサイトカインを用いた、あるいはこれら因子の発現を変化させることによる外尿道括約筋の自己再生、機能維持は難治性尿失禁に対する新たな治療法となる可能性があると考えています。
参考文献
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❈⒍ Hanada M, Sumino Y, Hirata Y, Sato F, Mimata H. Growth Inhibition and Apoptosis Induction by TNF-α in Satellite Cells of Human Urethral Rhabdosphincter. J Urol. 2010; 183: 2445-50.